◆タイムマシンコンディション?
かつて何度かネットで売られているYF-201を見たことがあるが、どれも皆無造作に使い込まれた、いわゆる「プレイヤーズコンディション」だった。と言うか、それはまだ良い方で、楽器として大丈夫なのか? というジャンクに近いものも。やはり入門編ギターにありがちな命運を辿るものが多数。状態の良い物でもプレイヤーズコンディション止まりなのか、と思っていた。
ところが――2022年9月、ヤフオクで偶然発見した出品物は目を疑うものだった。
「S.Yairi YF-201 S.ヤイリ 1977年 希少特注品? タイムマシンコンディション極上品」
なんと程度極上のYF-201だと!? 8割は疑念を抱きつつ出品物の画像、説明を見てみると――。
確かに、歴戦の強者コンディションが大多数を占める旧S.Yairiにおいて、これ以上状態が良い個体は無いだろうと思っていた手持ちのYD-303に匹敵するレベルの状態の良さでは? と思われた。
さらには、商品の説明文に興味深い情報が色々と記されている。
「シリアルから推測すると1977年の製品だが何故か70年代初期の特徴を持った面白い個体」
これは興味深い。が、この辺は実物を見てみないと、かな。
心は決まった。このコンディションで真っ当なギターショップならこのくらいの値段、というあたりの金額で入札する。高値更新されればそれ以上は競わない、と決めた。もし縁があるのなら――。
結果は、想定価格で落札することができた。ラッキーである。 さて、実物はどんな感じだろうか。
◆二本目の大当り
無事に到着し、状態を確認する。画像から予想した通り表板の焼けは年代の割りに少なく、傷もほとんどないので未使用かと思う程だ。だが、ネックを見るとちゃんと弾きこまれていたことが分かる。これはおそらく指弾きで大切に使っていたのだろう。
ざっと点検したところ、楽器としてのコンディションについても問題はないと思われた。ただでさえタマ数が少ないYF-201が、令和のこの時代にこのコンディションで残っていたことは驚きである。
気になったのはオリジナル・ペグの精度の悪さ(これは値段的にいたしかたない部分ではある)と、ナットの部分くらい。ナットはちょっと底面が浮いているように見えるのと、ちょっと6弦側にずれているのが気になった。
Ramzy'sで見てもらうことにする。
「驚きのコンディションですね」との診断結果。ボディもネックも全くの正常だった。ただ、ナットに関しては「確かにずれているし、底の接着剤が分厚いですね」とのこと。その場で調整は可能ではあるが、ただ「今の弦高がギリギリなので、ナットの底を削るとビビる可能性が……」
ずれているのは気持ち悪いので「ダメならナット製作で」ということで調整を依頼した。接着剤部分を削って調整した結果「あ~、やっぱりほんのちょっとビビりますね」
むむ。「ほんのちょっと」か、と一瞬考えたが「あと、ネック幅に対して各弦間の溝の幅が狭いですね。ネックの幅が広い意味があまりないかも」の一言で製作依頼を決めた。
二週間後。YF-201は驚きの鳴りになって帰ってきた。いや、なんとも音が良いぞ! 正直なところ、ここまで良いとは想像もしていなかったので何とも嬉しい。もちろん深胴のDタイプとは違った、胴が薄い000の特徴でもあるレスポンスの速い響きだが、定価\50,000とは到底思えないレベルである。
極上のコンディションなうえに、音も極上とは――。
こうして、偶然見つけたこのYF-201は、YD-303に続いて旧S.Yairiとしては二本目の大当りギターとなったのである。
さて、では説明文にあった「面白い個体」の特徴を検証してみるとしますか。
2023.3.5