―序― 遠い記憶のイメージを辿って  

 Larrivee L-28 Deluxe Cutawayというギターがある。高校時代の1980年に初めてLarriveeというメーカーの存在を知って以来ずっと憧れて、大学時代にやっとの思いで手に入れたギターだった。大変気に入って愛用していたのだが、これが意に反して1年足らずで手放す結果になってしまった。いまだに忘れられない痛恨の記憶である。

 

 それから20年が過ぎてギターを再開した時、このギターをもう一度探してみようと思い立った。しかし、いざ探すにあたって、このギターに関する正確な情報を実は何一つ知らなかいことに気付く。

 

そもそもLarriveeとは

――どんなメーカーなのか――

――どんな歴史があるのか――

 

さらに、重要なことは

――Larriveeギターの仕様はその時々でどんな変遷を辿ったのか――

 

そして、本当に知りたいのは

――あのLarrivee L-28 Deluxe Cutawayとはどんなギターだったのか――

 

 有名どころのMartinやGibsonなら1980年代の同じ仕様のモデルを手にすることはそれほど難しくはない。詳しいマニアは多数いるし、関連ムック本などの資料も数多いからである。だからMartinやGibsonほどではなくてもLarriveeだってそこそこファンは多いはず、と軽い気持ちで調べ始めた。が、これがまったく簡単ではなかった。

 

 Larriveeは当時でも知る人ぞ知るレベルのマニアックなメーカーだった。ムック本などの参考資料はなく、詳しいマニアも見当たらない。代理店も変わっていて、すでに昔のモデルのことはわからなくなっていた。そのうえ当のLarrivee社自身においてさえ、アコースティックギター受難の時代と言える1980年代より前の正確な情報は失われていたのである。

  

 そもそも自分が持っていたL-28 Deluxe Cutawayの製造年すら特定できない、探すにしてもそれがどんな仕様だったのかわからない。頼るべきは1枚のピンボケ写真と自分の記憶のみ、という厳しい状況からのスタートだった。まずは正確なガイド情報が必要で、そしてそれは自分で一から調べる必要があった。

 

  

 それから4年の歳月を費やして――主にインターネットの売買情報や個人の所有情報などからコツコツと情報を収集し、独自に調べ上げて完成したLarriveeギターの仕様変遷史、それが「Report of Larrivee Guitars(初版)」である(目次ページ写真参照)。

 

 ただ、この初版の実態は単なる個人資料だった。出版物の写真やインターネットの画像など、著作権に抵触する引用物もあって外部に発表する体裁ではなく、その予定も当初からなかった。おまけに、苦労してかつての相棒L-28 Deluxe Cutawayの正体をつきとめたはいいが、同時に、入手はほぼ困難という非情な現実を知ることになる。結局は叶わぬ願いか――と資料もそのまま放置されPCのアーカイブ奥深くへ。

  

 皮肉なことに、それからほどなくして運命が動き出す。

 

 奇跡としか言いようのないL-78 Presentation Cutawayとの出会い、弾き語り活動再開。そしてギター再開から12年経って、ついにかつての相棒と同年代・同仕様のL-28 Deluxe Cutawayを入手(※)。なんと、ギター再開時の願いが叶ったのである。

 

 今、そんなLarriveeギターとの関わりの節目として「Report of Larrivee Guitars」をきちんとした状態にしておきたいと思い立った。初版が完成したのが2008年11月。すでに10年前の、まだL-78 Presentation Cutawayを手にする前の時点である。今日振り返ると、明らかな誤りやこれ以降に明らかになった事実も少なからずあり、これは未完成版と言わざるを得ない。

 

 そこで今回、Larriveeギターに纏わる一連の物語の執筆完了を機に、資料の全面見直し及び再編纂を行ってみた。ここに足掛け14年にわたるLarriveeギター研究(?)の成果を残しておく。これは、Vintage Larriveeに魅せられてしまった僕自身の記録でもある。 

 

—2019.01.29—

 

 ※:さらには2020年、あろうことかかつて手放したL-28 Deluxe Cutawayそのものとの再会も叶った。