魔道記~外伝(魔モノ図鑑編)

魔モノ図鑑④~SHUBBにハマる!  

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 これまで紹介してきた「初心者セット」シリーズの最後を飾るのは、カポタスト。略して「カポ」と呼ばれる道具である。

 

 カポタストとは――弾き語り等で、譜面のコードを変えずにキーの高さを変えたい場合、もしくは、キーの高さを変えずに違うコードで演奏したい場合に使う道具である。特に、弾き語りでは必須なので、僕も初心者当初は大変お世話になったし、もちろん今でも欠かせない重要アイテムだ。

 

 ご多分に漏れず、カポタストと名の付く商品も多種多様に存在している。ここでは、それらの中から代表的なものを僕の使用歴から紹介することにする。

 

 

 最初に使ったのはゴム式のカポタスト。初心者セットに入っていたものだ。 


 最も安価、手軽。ただ、締め加減の微調整ができず、音質も二の次で、最大の難点はゴムが伸びて使えなくなること。1年くらいでダメになった。これは消耗品の部類だ。

 

 

 それで次に買ったのは――当時僕が知っていた限りとして、カポタストの最高峰だったYAMAHAのCP-200。スクリュー式と呼ばれる、ネックの裏を抑える部分をネジで締め込みんで調整方式の、金属製のカポタストだ。

YAMAHA CP-200 1982年頃購入
YAMAHA CP-200 1982年頃購入

 当時、YAMAHAには同じ形で材質の違う二種類のカポがあった。CP-100はダイカスト製でやや軽い感じに対してCP-200はブラス(真鍮)製で重量感があった。僕は一念発起してCP-200を買ったのだ。

 

 ゴム式とは一聴して音が違うことがわかった。詰まったような、ミュートしているようなゴム式とは音の伸びが違う。安価なMorris W-20の音が良くなったと錯覚する程だった。ブラス製なので使い込むと味が出て来る。愛着も沸く。

 

 それでカポタストという道具に俄然興味が湧いた。

 

 

 そのタイミングで見つけたのが、当時ちょうど発売されたばかりのPICKBOYのスクリュー式CP-100。これは「入門者用」の位置付けの商品で、素材が樹脂製ということもあってか、YAMAHAに比べると格段に安価だった。 

PICKBOY CP-100
PICKBOY CP-100

左:高校時代に購入  右:後に購入した色違い
左:高校時代に購入  右:後に購入した色違い

 着脱が独自のスライド式で、スクリューが逆ネジ仕様。アイディアが盛り込まれたオリジナル商品だ。逆ネジは「使い勝手を考えて」のことらしいが、他に逆ネジ仕様の商品はないので、たまに使うと戸惑う。ネックに着けるとかなりデカく感じる。音は軽い、というか軽快。

 

 Morris W-20にはちょうど合っていた感じで気に入っていたが、弦を抑える部分のゴムが硬化してしまった。替えゴムがないので困っていたが、近年、色違いの商品が売られているのを見つけて思わず購入した(黒)。意外にロングセラー商品なことに驚きである。

  

 

 YAMAHAとPICK BOYを使い比べてみて、一括りに「カポタスト」とは言っても、それぞれ使い勝手も音も全く違うことを実感した。ただ、音に関しては善し悪しではなく単純に好みの問題の範疇かもしれないのだが。

  

 

 その後、大学時代もYAMAHA CP-200をメインに使っていたが、YAMAHAのカポタストには少々厄介な問題が潜んでいたことを知る。それは、カポタストの回転する軸の先端がネックを抑える軸受けの革の部位を突き破ってしまい、ネックにドリルで穿けたような酷い傷をつけるという事象だ。これがけっこう多発したらしく、僕の界隈では「高級ギターにYAMAHAは絶対に使うな!」という御触れが出ていたくらいだ。

 

軸にワッシャーを噛ませて対策済のCP-200
軸にワッシャーを噛ませて対策済のCP-200

 

 これは構造的な欠陥のように思う。幸い、僕のカポタストでは起きなかったが、確かにそんな予兆のようなものは感じられた。「使うな」と言われても長年使って愛着もあるし…。

 

 そこで、予防措置として軸が軸受けに必要以上に入り込まないようにワッシャーを追加する細工をして使い続けた。対策が効いたのか、事故は起きていない。その細工は今でも残してある。

 

 


 その後、社会人になりたての頃に、押さえ部分のゴムが完全に崩壊したので新しくCP-200を買い直したのだが、(替えゴムだけ売っているのを知らなかったのである)こちらは軸が飛び出る不具合は起きなさそうだった。欠陥は解消されたようである。

 

左:社会人になって買ったCP-200  右:最初に買ったCP-200
左:社会人になって買ったCP-200 右:最初に買ったCP-200
軸受けの細工はしていない。が、問題の事象は起きそうもない。
軸受けの細工はしていない。が、問題の事象は起きそうもない。

 

 ちなみにYAMAHAのカポタストのもう一方、ダイカスト製のCP-100も持っている。近所のリサイクルショップのジャンクワゴンで見つけたものだ。押さえ部位のゴムや軸受けの革とサイド部分のネック傷防止の革も無い、本体の金属部分だけの状態だった(それ故ジャンク!)。これに替えゴムを付けて、革部品は自作して見事に現役復活を果たし、今に至っている。

 

 画像では判り辛いと思うが、CP-100の金色は塗装によるものだ。CP-200は手仕事で作られた形跡が見受けられるが、恐らくCP-100は鋳造で、比べてみるとなるほど値段の差は確かにある。ブラスとダイカストという材質もしくは重量の違いによるものか、CP-200に比べて音はかなり軽めだ。 

YAMAHA CP-100
YAMAHA CP-100
左:YAMAHA CP-200     右:YAMAHA CP-100
左:YAMAHA CP-200     右:YAMAHA CP-100

左:YAMAHA CP-200   右:YAMAHA CP-100           つまみ部分の形状が異なる
左:YAMAHA CP-200 右:YAMAHA CP-100           つまみ部分の形状が異なる

 

 そんなYAMAHAのカポタストもつい近年になって生産中止。替えゴムも手に入らなくなってしまった。

 

 現在、YAMAHAのカポタストはフリマサイトではなかなかの高額な値段で取引されているようである。知名度が高く愛用者が多かったためだろう。ただ、客観的に評価するならYAMAHAのカポタストも「音」に関しては特筆する程良いわけではない、とは思うのだけれど――。

 

 

 

 続く… 次回はギター再開後~の話

 2022.03.25