ギターに弦を張ったら、次にやるのはチューニングだ。
チューニングとは各弦の音を決められた音程に合わせることである。これをやらないと演奏は出来ないのだ。だから――
ギターを弾く前に必ずチューニングはするので、思えばギターを始めて以来ずっと、たとえ意識はしていなくてもチューニングのための道具(チューナー)は、常に傍にある「なくてはならないモノ」と言えるのだ。ただし、チューナーは時代と共に進化していて、そんなチューナーのある風景もそれとともに変遷している。
今回はそんなチューナーにまつわる話を。
初めてのギターを買ったらたいていおまけで付いてくる「初心者セット」には必ずチューニングのための道具が入っているはずだ。初心者セットのチューナーといえば、当時は音叉かピッチパイプ(調子笛)だった(※1)。
ピッチパイプは6弦それぞれの音が鳴る笛で、各弦を笛の音に合わせれば良い。一方、音叉はAの音(440Hz)が鳴るだけで、まずそれを5弦と合わせ、他の弦は5弦から相対的に合わせるやり方になる。
僕がMorris W-20を買った時にもらったのは音叉だった。音叉だと一見手間がかかりそうだが、これはチューニングの基本中の基本の技なので知っておいて損はないはずだ。よって音叉は一個持っていた方が良い。音叉じゃなくてもA音が出ればOKなのでスマホとかでもできるけれど。
音叉は振動している状態でギターのボディー(ブリッジなど)に当てて響かせた時の音が好きだ。それに、弦の音を合わせるのに共鳴の具合でわかりやすいのがいい。そういう意味で付いてきたのが音叉で良かったのかなと思う。ただ、付いてきた音叉には特に思い入れもなかったのだけれど。
僕が現在所有している音叉は、修学旅行で東京御茶ノ水の楽器屋街でたまたま見かけた、ちょっとだけ高級な角ばった音叉をお土産代わりに買ったものである。少しサビがあるが今でも現役だ。
本格的なチューナーと呼べるものを買ったのは大学時代。画期的かつ小型の、LEDメーターを使ったKORG DT-1だ。
DT-1は所謂「針式チューナー」というジャンルで、マイク又はケーブルからの電気信号の音を拾ってその音程をメーターに表示する方式の機器だ。DT-1以前の針式チューナーはわりと大型で、どちらかというとプロ向けのスタジオ機材の位置付けだったのだが。
DT-1はカセットケースサイズ。これは当時の世界最小だった。
録音媒体としてカセットテープが全盛の時代、SONYのWALKMANがカセットケースサイズを目指して小型化に邁進していたこともあり、カセットケースサイズとは当時の小型機器の象徴でもあったのだ。つまり、これは初めての個人向けチューナーとも言える。
1985年、僕は発売と間もないころにこれを見て外観に一目惚れして衝動買いした。結構奮発して買った記憶がある。ちょうどLarriveeを所有していた頃で、それに見合った機器があってもいいかな、と思ったのもある。
これは、それまで音叉でチューニングを行っていた身にとっては初めて使った「ハイテクマシン」で、衝撃的に便利だった。各弦を鳴らして、メーターを見て音程を調整するだけ。耳を使わなくてもチューニングができる時代になったのである。
難点と言えば、マイクで弦の音を拾うので騒がしい場所では合わせづらいこと。本番ステージだとチューナーにギターの音だけを拾わせるのに苦労した記憶はあるけれど、それでも音叉で合わせるのに比べると格段にチューニングの手間は省けたのだった。
ちなみにDT-1は大いに売れたらしく、しばらくして黒のバージョンも出た。こちらもカッコイイ。学生時代は同じチューナーをもう一つ買う余裕はなかったが、つい最近入手し、スタンバイしている。
針式チューナーをもう一つ。こちらはBOSS TU-12。
バンド時代にエレキギター用に購入。DT-1もエレキに使えたのだが、視認性などの面で足元に置いての使用には向かないのでこちらを購入。当時は誰の足元のエフェクターボードにも必ずこれが組み込まれていた、と言っても過言ではないくらいエレキギタリストの間では定番の商品だった。LEDチューニング・ガイドでチューニング状態が瞬時に判断でき、アナログの針式メーターも反応が良くて使い易かった。もちろん、生音でのチューニングも可能。
画像は予備に買っておいた未使用品(日本製)
DT-1とTU-12はギター再開後も継続して使っていた。そう。あの革命的なチューナーが出るまでは――
革命的なチューナーとは2004年発売のKORG AW-1、最初のクリップ式チューナーだ。「革命的」なポイントはピエゾ素子(※2)で振動を拾ってチューニングできること。これにより多少周りが騒がしかろうとチューニングができるようになったのだ。
それに加えて超小型のサイズとクリップで取り付ける方式が斬新だった。AW1は元々、管楽器用に開発したそうだが、ギターのヘッドにもジャストフィットするのでギタリストも使い始めたのだった。
AW-1がどれだけ革命的だったか。当時はプロのステージでもギターのヘッドにこれが付いているのをよく見かけたものだ。こうすることで、チューニングの度にチューナーを準備をしなくて良くなったからだ。
AW1については出た当初から知ってはいたが、自宅で弾くだけだったので必要性もなく、しばらくは傍観していたのだが――その間、あっという間ににクリップ式チューナーは主流になって行った。
僕はAW-1がそろそろ生産完了になる2007年頃に限定カラー(黒)のバージョンを買った。
実際に使ってみると、モノクロ液晶だが視認性は良く、感度も良いので使いやすさは断トツだった。
センサーはマイクとピエゾの切替ができる。付ける位置によっては液晶表示の上下反転の機能もあって便利だ。
ただ、唯一とも言える欠点は暗い場所では見えないこと。舞台脇の薄暗い控室などでも見えづらい。
もう一つ、これは微々たる欠点だが、構造的に電池の蓋部分が壊れやすいらしい(注意書きが添付されている)。
AW-1のヒットと反響を受けて、KORGのクリップチューナーには次の機種(AW-2)からはバックライトが付いて暗い場所での視認性はよくなり、電池の蓋も改良され、弱点は解消された。その後はカラー液晶化されたりと順調に進化を重ね、今では様々なメーカーの多種多様なクリップ式チューナーが市場を席捲しているのである。
ちなみに僕はこのAW-1をいまだに使い続けている。デザインも使い勝手も良くモノクロ液晶に特に不便はないので。
チューナーはギターを弾く度に使う、いわば日用品的位置付けの道具だ。あまり意識はしない。それ故にギターのある風景の一部に溶け込んでいる。だから、例えばライブ途中のチューニング風景も時代と共に変遷しているのだ。
膝で音叉を鳴らしてギターで響かせる――。
↓
譜面台にチューナーを置いて至近距離で弦を弾く――。
↓
クリップ式チューナーをヘッドにつけっぱなし(※3)――。
とはいえ――
どれだけチューナーが進化してチューニングが楽になっても、チューニング中は無口になってMCが途切れ、間の悪い空気が流れる事態に陥るのは今も昔も変わらない。チューミング中に勝手に場をつないでくれる便利なAI機能付きチューナーは出ないかしら……。
<チューナーのある日常~完>
2021.9.19
※1:今なら初心者セットに付くのもクリップ式チューナーかな…
※2:ピエゾ素子を使うと振動を電気的に検出できる。ギターの振動を拾って音に変換できるのでピックアップ用としても使われている素子である。
※3:ただ、僕はヘッドに付けっぱなしは見栄えがイヤなので、ライブのステージではストラップピン近くのストラップにつけて使っている。
AW-1をヘッドに付けると、構えた状態でちょうど見易いセッティングとなる。ギターの場合はこの使い方が標準だろう。
これがストラップの根本に付けた状態。
ここなら自分では見易く、かつ、観客からは見えにくい。
え? こんな部位でチューニングができるのか? というと、できるのだ。これでもヘッドに付けるのと変わらない感度でチューニングできる。とても優秀なピエゾセンサーだと思う。