初代魔女再生記  

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 2020年12月12日、午前――

 

 朝の衝撃の余韻が残る。まさか本当に初代魔女だったとは。

 

 まだ半信半疑ではある。これだけは叶わない願いだと思っていただけに、ここに「それが存在している」ことがどうにもしっくりこないのだ。触ることができる幻というもがあるとすれば、これがまさにそんな感じなのか? と思ったりする。事実に理解が追い付いていないのである。

 

 ただ、やるべきことは明確だった。こうなった以上、何が何でもまともな状態に直してやらなければならない。

 

 何とか弦を張れて辛うじて音は出る。だが、それだけだ。現状は楽器としての使用には耐えられない状態なのである。今日はこれからRamzy'sへ持ち込むことにした。どのみち、今週末は届いたら行こうと予定していたのだ。だが、その前に不具合の状況をきちんと把握しておかなければ。

 

 改めて状態をチェックする。

 

 自分で取り付けたゴールドのグローバー・インペリアルペグは、寸分の狂いもなく元の取り付け跡に収まっている。ネジの締め込み状態とガタつきをチェック。これはおそらく問題ないと思う。 

なぜかペグが付いていなかった……
なぜかペグが付いていなかった……
ゴールドのグローバー・インペリアルペグを付けた
ゴールドのグローバー・インペリアルペグを付けた

 

 弦のビビリについては、ネックのほんのわずかな逆反りの影響はあるが、それより問題なのはナットの弦溝がえぐれて弦高が低くなってしまっていることだった。これはナットを新たに製作してもらう必要がある。サドル側の調整やフレットの擦り合わせも要るかもしれない。ただ、このあたりは素人には判断出来かねる部位ではあるが。

 

 ブレイシングは、音の状態から判断して見た目で判明した2カ所の他にも異常がありそうだ。最悪は全滅かもしれない、と覚悟しておく。 

 

裏板のブレイシング
裏板のブレイシング
剥離して、付箋が簡単に貫通してしまう!
剥離して、付箋が簡単に貫通してしまう!

  

 僕が認識できるギターとしての機能的な問題はこれくらいだ。あとは専門家の目に委ねるしかない。

 

 

 続いて、見た目の部分。6弦脇の塗装が完全にえぐれているストローク跡は、木部の保護のためにタッチアップ塗装してもらうことにする。僕がどう弾いてもそんな場所に傷はつかないので。 

 

 1弦側のピックガード下部まで続くストローク跡は、よく見るとその部位には再塗装の痕跡と、小型のピックガードか何かを貼って剥がしたような、これまた酷い傷がある。ただ、6弦側と違って塗装が?がれているわけではないので、こちらは自前で研磨等で何とかなりそうだ。あと、ピックガード横の溶けたような跡も自力で解決する、もしくは放っておくことにする。

  

6弦側の傷は木部が露出している。ピックガ-ド横と下部にもダメージが……
6弦側の傷は木部が露出している。ピックガ-ド横と下部にもダメージが……

 

  最後に、使い勝手の部分。取り付けられている謎のピックアップは、おそらく貼るタイプのピエゾピックアップだと思うが、これは不要なので取り外してもらって、エンドピンジャックの穴も塞いでエンドピンを取り付けてもらおう。

 

 

 昼過ぎ――

 

 Ramzy'sに行くのも久しぶりである。失業中はあまり出歩かなかったし、2020年はコロナの影響で夏前に一度顔を出したっきりだ。

 

 すでに寝雪の冬道ではあるが、晴れていて路面状態も悪くない。道中は順調だった。

 

 

「あ、お久しぶりですね」N店長は変わらずに暖かく迎えてくれる。幸い、他に客はいなくて暇そうにしていたので、L-28と今回の顛末をじっくり聞いてもらった。

 

「……で、これがその写真なんですけど、どう思います?」と、持参した初代魔女の写真を見せた。

 

  N店長は、店内の照明を当てて角度を変えながら何度か見比べていたが、やがてきっぱりと言った。

 

「はい。これは私が見ても、間違いなく同じギターに見えますよ」

 

 良かった! 実はこれも重要な目的の一つだったのだ。極度にバイアスのかかった僕の目ではなく、より客観的な第三者、それも専門家の意見を聞きたかったのだが、これでお墨付きももらえたようだ。

  

「それにしても、そんなに昔に手放したギターが戻って来るなんて話は、私も聞いたことがないですね」と、N店長も感慨深げに言うのである。やはり今回の出来事は世間的にも尋常な例ではないらしい……。

 

 

 本題に入る。

 

 ブレイシング、弦のビビリ、ナット製作、フレット擦り合わせ、あと、木地が露出したピック傷に保護目的のタッチアップ 等々……気付いた不具合と要望を伝えて、その場で簡単にチェックしてもらう。

 

 問題は、僕では判らない不具合が他にないか、という点だが「たぶん、問題なく直ると思いますよ」と、頼もしい言葉が返ってきた。ただ――

 

 「今すぐは。ちょっと立て込んでいまして……」

 

 これも毎度予想した通りであった。修理に取りかかれるのは早くて年明けになる、とのことなので、この日は予約だけお願いしてL-28は一旦家に持ち帰ることにした。

 

 

 懸案事項には解決の目途が立ったので、とりあえずは安心である。楽器としては心持たない状態ではあるが、年内はこのままの状況で、久しぶりの再開を楽しむことにしよう。

 

 

 2020年――色々あったが、最後にこんな極上のサプライズがあるとは思ってもみなかった。年が明けたら、初代魔女L-28は「戦力」として復帰するはずである。その時、何が起きるのだろう? いや、何も起こらないはずはない。

 

 そんな予感はするものの、師走の日常はあわただしく過ぎる。 

 

2021.2.23