魔道記アーカイヴ

Larriveeクラシックギター二選  

後継モデルの実力は? ―2006年11月―

 

 2005年の終り頃、Larriveeのホームページで「クラシックギター生産再開」という発表を見つけた。ほう、現行のLarriveeクラシックギターとは、ちょっと気になるではないか。デザイン的には1970年代の寄木細工ロゼッタを復活させたという。それは、現在メインで弾いているL-31と同様なデザインということだ。「4年間の中断を経て~」というくだりからアメリカの新工場ではクラシックギターは作ってなかったということになる(新工場は2001年9月から稼動)。つまり、僕がクラシックギターを始めた時Larriveeはクラシックギターを生産していなかったのだ。 

 

 生産中断以前にカナダで生産されていたクラシックギターは、当時のカタログによるとアバロンパール・ロゼッタで一見クラシックギターっぽくないボディデザインだ。実は、元々はこのカナダ産最終あたりのクラシックギターを狙っていた。ただし、これも滅多に市場に出回らない希少品で、インターネットでも「SOLD OUT」になった画像を一度見たきりだった。そんな中で先にL-31を見つけたので、以降はあまり気に留めてなかったのだが。

 

 ところが、2006年になってそれが現れた。L-30という2000年代製。実に困った。L-31とL-30。手作りのビンテージ級と量産新型とではどういう違いがあるのか。

 

 気になる――気になる――気になる――。元々買うつもりだったやつだし。 

 

 で――買ってしまった。これでめでたくLarriveeのクラシックギターは2本になったのであった。 

 

 

 Larrivee L-30 2001年製。表板は所々にベアクローが入った良質なシトカ・スプルースでまだほとんど焼けもない。前オーナーは全く弾いてなかったのだろう。ほとんど新品と言っていいコンディションで、これは見っけもんだった。 

 

 L-31と比べると、明らかに違う。外見ではボディーサイズは一回り大きい。見た目の特徴としてはサウンドホール周りのロゼッタがアバロン・パールであること。これだけでクラシックギターっぽさが薄れる。弦長もL-31の650㎜に対して660㎜。一方、ネック幅が50㎜とやや細く、薄い。見た目も弾いた感じも、一般的なクラシックギターと鉄弦アコースティックギターの中間という印象だ。 

 

 音は、深みのある響きのL-31に対し、クリアで明るく歯切れが良い音色だ。ボディーサイズも大きいので良く鳴る。これは現行Larriveeの鉄弦ギターでの特徴と一致していると見た。まぁ、同じ工場で同じ材料使って作ってるんだから。

 

 ということで、L-31とL-30は全く別物と言っていい。キャラがかぶってないので曲とか気分とかで使い分けられそうな感じだ。 

 

 ところでこのL-30、ラベルには「Made in The USA」と記されている。製造年月を問い合わせた所、2001年11月のカナダ製との回答があった。カナダ製? 本当だろうか? アメリカ工場での初期の製品なのか、はたまたカナダ製でラベルだけアメリカ製としたのか(アメリカ工場の稼働が2001年9月からなので、たぶんアメリカ製が正しい)。 

 

 どちらにせよ、このL-30は現行(2006年当時)の一つ前のモデルの最終年式であることは間違いない。

 

<後継モデルの実力は? 完>


Larrivee L-30 Classical 2001
Larrivee L-30 Classical 2001

 

 

再び魔女の国から ―2008年7月―

 

▼△ 再び海の向こうに魔女を見た △▼ 

 

 カナダのトロント、Larriveeギター発祥の地。ビクトリア時代最初期の魔女L-10 Deluxeを見つけたTwelfth fleという店。2008年夏のある日、僕は再び何かに誘われるようにこの店のホームページにたどり着いた。 

 

 お、これは――目を疑うような文字を見つけた。 

 

 それは何気なく見た「中古」のコーナーで目に飛び込んできた。Larrivee Classical 1974、トロント時代のクラシックギターだ。 

 

 トロント時代初期のLarriveeはクラシックギター製作がメインだった。僕はLarriveeクラシックギターL-31を弾くにつれ、それがどんなものか興味が湧いてきていた。トロント時代のクラシックギターがとても気になっていたのである! 

 

 それにしても――メインで3年使っているLarrivee L-31、これは1978年製。トロントの後のビクトリア時代の製品だ。そのビクトリア時代のものでさえLarriveeクラシックギターなんて他に1本も見たことは無い。ましてやトロント時代のものなんて博物館入りレベルの希少品だ。実際に売りに出されているのがあるなんて。 

 

写真のページを見てみる。詳細なギターの写真が載っていた。

 

 !!

 

 見た目はL-31とほぼ同じ。こ、これは――本当に「純クラシック」と言えるLarriveeではないか。何という美しさ、何というオーラ。『この時代の物としては見たこともないほどキレイである――』と、商品のコメントにもある通り、30年以上前のものとは思えない極上のコンディションらしい。 

 

 どうやらまたしても「魔女の瞳」は遠く海の彼方から僕をロック・オンしたようだ。とはいえ――まだL-10という魔女を買ったばかり。そうそう次から次へと出現されても、ねぇ。

 

 そんな僕の姿にいらついたのか、思わぬ所から事態は動いた。魔女の仕業? と思えたのはある日を境にドルが急落を始めたことだ。1カナダドル114円くらいだったのが、一気に10円くらい下がったのだ。つまり、実質値下がりしてるのだ。チャンス? かもしれない。罠かもしれないが。資金は――ギター資金はギターから。手持ちの何本か里子に出せば何とかなる。よし! 心は決まった。 

 

 

▼△ 教訓1:善は急げ! △▼ 

 

 決まったら行動は早いほうがいい。かつてのRamzy'sのL-10は店に行くのが1週間遅れたせいで結果的に買いそびれた。運命だったのだろうけど、けっこう後になってダメージが大きかった。とりあえず問合せだけは早くしておいた方がいいだろう。SOLDになっていなくても既に予約済みの場合も多々あるのだ。

 

 さて、また英文のやりとりか。1度実績はあるとはいえ、やはり英作文には苦手意識がある。まぁ、でも、たぶん何とかなるさ。ね。その日は日曜日。夜になって急に宴会が催され、問合せメールを作成するのが1日遅れた。これが今回もちょっとしたダメージに。

 

 月曜日。夜、英文を作って問合わせメールを送信する。

 

 火曜日。問合せ結果――まだ売れていなかった! 送料等を加味しても日本で買うより破格に安い! さぁ、これで「買う」と返事をすれば再び魔女が海を越えてやってくるのだ。そしてこの日、更にカナダドルは下がっていた。これは早く安いうちに送金をしてしまわなければ! 僕は購入の意志をメールで伝えた。 

 

 送金先を伝えてきた。前回と同じ口座だ。ところがここで予想外の事態。送金当日になってカナダドルが急上昇! 前日より3円程高くなっていた。うわ~っ! これだから外貨ってイヤだよなぁ。 

 

 結局、今回の1日の遅れは財布に少々余計なダメージを与えることになったのだ。善は急げってことだねやはり。ともかく、送金は無事完了。 あとは待つだけとなった。一旦決めたら行動が早いのが僕の特徴である。 

 

 だが、今回はここで更に想定外の事態に。 

 

 

▼△ 海外送金は不安がいっぱい △▼ 

 

 前回、送金は5日程度で相手の口座に届いたが、今回は1週間たっても音沙汰が無いのだ。まぁ「届くまで1週間は見ておいて」ということだから。その間、毎日ホームページの画像を見ていた。見れば見るほど良い。こいつは凄いギターだ。と確信が深まってきた。早く触れてみたい!

 

 10日目。カナダの店に問い合わせてみる。すると「まだ届いていない」と返事が。どうなってるんだろう? 「こっちの銀行は履歴の更新が遅いから」とのことだが、万が一の場合もある。さすがに不安がつのって送金元の銀行に問い合わせてみた。回答は、海外送金の仕組みとして、送金側は発信した後の経路には干渉できず、届いたかどうかの確認は出来ないらしい。何と不安な! 

 

 では、せめて正しく発信できたかどうかの確認をしてもらうことにした。「前回送金した時と同じ相手ですよね? 大丈夫です」とのこと。少なくとも正しく送られていることはわかった。単に受け取り側が遅れているだけ、みたいだ。でも何で?

 

 2週間経った。まだ音沙汰が無かった。 

 

 

▼△ 謎のメール遅延現象 △▼ 

 

 北米宛の送金がこんなに遅れるなんてやはり変だ。正しく送れているのだから――

 

受け取りに手間取っている? 

口座情報の更新が遅れている? 

届いているのに見逃している? 

 

どれもあまり有り得そうもないことばかりだが、可能性はこのくらいしかない。とりあえず、こちらの送金日から今日までの口座情報をもう一度チェックしてもらうよう依頼してみよう。

 

 メールを送信した。すると――即、返事が来た(こちらは夜、向うは朝だ)。それも2通。 

 

1通目:無事に入金を確認した。何時発送すれば良いか指示をくれ(昨日) 

2通目:昨日メールを出した。無事に入金を確認した。何時発送すれば良いか指示をくれ(今日) 

 

え? 

 

 入金は前日に確認されていた。何らかの理由で昨日の僕宛のメールが遅延していたのだ。それが今日の分とまとめて届いた。何故メールが遅延? しかもこんな時に限って! 

 

 

▼△ 終わり良ければ全て良し!の気分 △▼ 

 

 おかげで出さなくても済んだはずの問合せの英文を作るのに余計な手間がかかったではないか。まぁ、問合わせメールを送信しなければ遅延分のメールは届かなかったかもしれない、と思えば無駄ではなかったか。 

 

 何故送金がこんなに時間がかかったのか、結局わからずじまいだった。 が、何より、無事送金が届いたのでもう全部OK。即、発送してもらうように返信。ふう。あとはFEDEXにおまかせ、だ。ここまで来ればあとは本当に待つだけ――なはず。何か問題が発生するとすれば通関手続きだが。 

 

 

▼△ 超速!FEDEX △▼ 

 

 それにしてもFEDEXは早い。発送の知らせが来てからわずか2日でもう成田の通関済みになった。え、とぉ、前回は通関にけっこう時間がかかってやきもきしたのだが、今回は気がつくといつのまにかという感じで手続き完了となっていた。速っ! とりあえず「最後の関門」はあっさりクリアしちゃったわけで。

 

 前回のパターンではここから問合せ画面のステータス更新が無くなり、日通航空に荷物が委託されて1日程度で届くはず。前回、我が家の場所がわかりづらく「宛先不明」で荷物が一旦持ち帰られる事態になったので、今回はこの点を解消すべくポストに住所を明記した(前回はこれが全く読めない状態だった)。 翌日、念のために電話で問い合わせてみる。すると、予想通り「本日お届け予定です」とのこと。何と! 結局3日で届いた。 

 

 新たな魔女が再び我が家にやってきたのだ。 

 

 

▼△ 魔女の正体は? △▼ 

 

 届いた古いギターケース。クラシックギター用? にしては少々大きめな頑丈なハードケースだ。開けてみる。ホームページに載っていた写真がかなり解像度の高い詳細なものだったので、見た印象は予想と大きく違ってはいないはず、だが――。 

 

 実物は予想よりも数段美しい。本当にキズも少なく、綺麗なギターだった。ここに実物が存在することがにわかに信じられないような、奇妙な感覚に囚われる。手にとって見た。まだシリアルナンバー管理さえされる前の正真正銘の手工Larrivee Classical Guitarだ。 

 

 魔女が僕に微笑みかけていた。 

 

 

▼△ 2本の魔女を比べると △▼ 

 

 デザインはL-31とほぼ同じ。違う部分は、まず弦長とネック。L-31が650ミリに対してこちらは660ミリと若干長めだ。ネックはL-31はヒール部分が小型でワンピース構造に対し、こちらはいかにもクラシックギターらしい大きめのヒールで、ヒール部分は2ピース構造だ。ちなみにLarriveeギターのネックでワンピース以外を見たのはこれが初めてだ。 

 

 ネックは形状も微妙に違い、ボディサイズもこちらがやや大きい。その他、弦高等のセッティングも違うので弾いた感触は全く別物だ。使用されている材もやはり違う。トップ:スプルース、サイド・バック:ローズウッド、ネック:マホガニーという意味では同じだが、木の質感は異なっている。そういう意味で同じ材質ではない。 

 

L-31も正しくクラシックギターであるが、こちらは本当の本当に純正クラシックギターという感じがする。 

 

 音はL-31と基本傾向は同じだが、音の要素のバランスが全く違う。分かり易いのは音の出方で、どちらかというとこのギターは高音域の鳴りが美しい。L-31はより中低音域に深みがあり、高温域は比べるとやや控えめな印象だ。この違いは作られた時代によるものか、材質によるものか、単なる個体差なのか? 材質の違いによる影響が最も大きいのかな、と思う。 

 

 

▼△ どちらが好み? △▼ 

 

 「きれいな中古ギター」というのはすなわち「眠っていたギター」で、そういう意味ではこいつも「Sleeping Beauty」だ。以来2ヶ月半、毎朝弾き続けている。すると、やはり音が段々生き生きと鳴るようになってきた。 

 

 今は 

朝:こいつ 

朝以外:L-31 

という感じで使い分けている(L-30の出番は減っている)。 

 

 どちらが好みかというと、どちらも最高。そんな究極の選択はできない! どちらも最高レベルのLarriveeサウンドだと思う。 

 

 L-31はけっこう良い音で鳴らすのが難しいのだが、こちらは楽に音が出る。というか、L-31の弾き方では音が暴れるのだ。セッティングの問題かもしれないが。弾き方もギターで使い分ける必要がある。

 

 魔女の扱いはやはりとても難しいのだった。 

 

 

▼△ 魔女達との関係は… △▼ 

 

 魔女のギターを2台、交互に弾く日々―― 

 

 ある日、先生に「音変わったね。見違えるように」と言われる。本当だとすれば、それはきっとこいつを鳴らす技術が加わったおかげだと思う。 

 

 魔女達との関係は今のところ良好なようだ。今のところは、ね。 

 

 

<再び魔女の国から 完> 

 

Larrivee Classical 1974
Larrivee Classical 1974