初代Larrivee  

 大学時代、軽音楽系のサークルに入った。さすがはその世界、Larriveeを知っている人もそこそこいて、あるとき「Larriveeを売りたがってる人がいる」という情報を聞いた。

 

 待っていたのがL-28 Deluxe Cutaway というモデルだった。

 

 形はあのL-78と同じだけれど、装飾がやや簡素でブリッジも普通の木製――それは奇しくも、現実的な憧れとしてはこの辺かな? と、カタログを見ながら妄想していた機種だった。初めて見たLarriveeの実物は写真で見るよりも何倍も、何十倍も素敵で……とりあえず見るだけのつもりが、魔法をかけられたように一瞬で魅入られてしまった。

 

 L-28は当時の定価で¥600,000-と、実はこれも全く現実レベルのギターではない。それが、中古だけれど状態は良く売値は定価の半額以下。とはいえ、その値段でも当時の仕送り約5ヶ月分……うぅん、かなりキビシイかも。しかし、ある程度の頭金を払えば残りは分割でいい、という条件。ちょっと現実的になった。ちょうど夏休みのアルバイトが決まったタイミングで――。

 

 結局、買ってしまった。

 

 夏休みのアルバイト代は働く前から全額行き先決定! 極貧乏大学生にとっては限界ギリギリ、目いっぱいの背伸びをしてやっと、やっと高校時代からの憧れに手が届いた。

 

 夢にまで見た本物のLarrivee。繊細で、まるで工芸品のように美しく、音は……音は、イメージをはるかに超える素晴らしいものだった。これからはこいつを相棒に充実した音楽活動を! と思った。

 

――でも、夢のLarriveeライフは長くは続かなかった。

 

 

 翌年、僕と友人は時々、あるライブハウスで演奏させてもらったりしていた。そこのマスターがギターに詳しい人で、たまたま僕のLarriveeを見てもらうと「む、表板にクラック(割れ)が出かかってる」と衝撃のひと言! 見ると確かにそれらしい予兆が……。「湿度とか日本を想定してないから、弱いんだよね、こういうタイプは!」

 

 そう。Larriveeはこの点も見た目の通り、頑丈なギターではなかった。今なら自室でギターの管理もちゃんとできるけれど、このころの生活環境はギターにとっては過酷極まりない状況だった。まるで、高級外車を車庫がなくて雨ざらしで保管しているように。

 

 そもそもの原因だって無知による管理不行き届きだし、おまけに、このクラックは放っておくと拡がる! 直すにもお金がかかる。さらには直っても次の不都合が出ない保証はない! いや、むしろ出そうな予感さえある。

 

 僕は絶望の奥深くに叩き落された。そして、悩んだ末に手放すことに。

 

 苦渋の選択だったけれど、決め手はやはり維持費の問題だったと思う。「買った」時点がもう限界のいっぱいいっぱい、それ以上の出費はどう考えても不可能な状況だったのだ。

 

 身分不相応。一言でいうとそういうことだ。

 

 

 こうして初代Larrivee(※1)は、一年そこそこで悲しく僕の手から離れて行った。後に、表板を修理されて海外に売られて行ったと聞く。

 

 その後、僕はドラムに目覚め、バンド活動に方向転換することになる。それとともに徐々にアコースティックギター演奏の機会も減って行って――。

 

 でも、心の奥底ではいつもどこかにあのLarriveeが引っかかっていた。意思に反して手放すことになってしまった初代Larrivee L-28 。あれはやはり僕にとって最高の相棒だったと思えてならないのだ。

 

 

<完>

 

※1:後述の「初代魔女」

 

←写真は、たった1枚だけ残っていた当時の「初代Larrivee」こと Jean Larrivee MODEL L-28 DELUXE CUTAWAY