魔道記~外伝(非・魔物ギター編)

希少種を巡る考察  

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「この個体が珍しく希少、特注品?と思わせるのは70年代後期の製品ですが60年後期から70年初期の特徴が有るところです」と、出品者が指摘していた特徴は下記三点。

 

①ヘッドに丸みがあり、シャモジのような形状

②ネックが広く(46㎜)薄い。

③エンドピンが白いプラスチック製で黒ドット

 

 ではまず①について、ヘッドは1976年YD-303と比べると確かに角がやや丸い。

左:S.Yairi YF-201 1977 のヘッド やや丸みを帯びている
左:S.Yairi YF-201 1977 のヘッド やや丸みを帯びている
右:S.Yairi YD-303 1976 のヘッド わりと角ばっている
右:S.Yairi YD-303 1976 のヘッド わりと角ばっている

 

「シャモジのような形状」というのは、ネック裏の形状を指していると思われる。 

左:S.Yairi YF-201 1977 のヘッド(裏) ボリュートなし
左:S.Yairi YF-201 1977 のヘッド(裏) ボリュートなし
右:S.Yairi YD-303 1976 のヘッド(裏) ボリュートあり
右:S.Yairi YD-303 1976 のヘッド(裏) ボリュートあり

 

 YDシリーズにある、ネック裏側付け根部分の「ダイヤモンドボリュート」という形状。ネックの強度を高める目的と装飾の意味合いも兼ねた部位で、これはMartinを模している故と解釈している。

 

 一方、YF-201はネック裏にボリュートがなくつるっとした形状。確かにシャモジのように見えなくもない。これについては、他の個体も皆同じ形状なのでYF-201としての仕様が「ボリュートなし」なのだろう。そもそもYDシリーズと比べて「形状が違う」と言うのはあまり意味がないかもしれない。

 

 YFシリーズのボリュートなしのネックは、ヘッドの形状も含めて意図的に仕様を全く変えなかったのか、単に70年代初期に作られた部材が残っていたからそのまま使われていたのか。意図したものなのか特に意図はないのか。その答えはわからない。

 

 

 ②について、ネック幅が広いのは特注品ではなく標準仕様だったと思われる。というのは、たまたま同年代のYF-201が出品されていて、ネック幅を質問してみると「4.5センチ」と回答があったので。4.5センチ=45㎜は通常よりかなり幅広だ。本個体の46㎜との差は測定誤差の範囲と見ていいかな、と。

 

 あと、この個体に関して言うなら、ナットの弦間の溝幅がネック幅に対して狭く、弦全体がネック中央に寄って1弦と6弦の外側が余っている状態だった。これでは46㎜のネック幅の意味があまりない。わざとなのか、溝幅の仕様もYDシリーズと共通化してしまったからのか。この個体だけなのかそれともYF-201全部がこうなのか……これも真相はわからない。

 

 

 一方、③のエンドピンについては、このYF-201がイレギュラーのように思える。他のYF-201の画像では黒檀のエンドピンが付いているからである(サンプル数は少ないけれど)。とは言っても、簡単に付け替えられる部位であるから、最初からこれが付いていたかどうかも定かではない。

左:S.Yairi YF-201 1977 のエンドピン
左:S.Yairi YF-201 1977 のエンドピン
右:S.Yairi YD-303 1976 のエンドピン
右:S.Yairi YD-303 1976 のエンドピン

 仮に、最初からプラスチック製だったとしても、その理由はやはり「仕様が定かではなかった」「部材が余っていた」程度ものしか思い浮かばないのだが。

 

 

 結局のところ、どれ一つ確かなことはわからない。ただ、フォークブームで主力のYDシリーズの製作に追われ、不人気のYFシリーズの細かな仕様にまでは十分に気配りされなかったことは推測できる。突き詰めるとこれら「面白い個体」の特徴はどれも、不人気機種だったことと大いに関係がありそうである。

 

 

 発売当初は人気が無かったが、後になって何かのきっかけで注目されるようになったことで希少種となったYF-201。「後になって注目」の部分が無ければただの不人気機種のまま歴史に埋もれる運命だったはずである。そんな機種の当時の事情などは、おそらく製作した側にもわからないことが多いだろう。

 

 でもそれでいい。こうして誰も気にしないようなささやかな謎に想いを馳せるのも楽しいのだから――。

 

S.Yairi YF-201 1977

 

 表板:スプルース単板

 裏板:ローズウッド

 側板:ローズウッド

 ネック:マホガニー

 指板:ローズウッド

 駒:ローズウッド

 ピン:黒タン

 

 

旧S.Yairi唯一の000型だが、当時は不人気だったが故に色々と謎が多い機種である。

何より、想像を超えて音が良い!

 

<完>

2023.05.09