最後の魔女  

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  僕がギターについて語る時、外すことのできない存在の初代魔女Larrivee L-28 Deluxe Cutaway。大学時代、僕が自分のお金で買った最初のギター。だが、当時の僕はそれを意に反して手放してしまった。仕方のない事情だったとは言え、そのことは後々まで後悔を伴う選択となった。弾き語りという音楽活動をやめるきっかけにもなった。そして初代魔女と共に進もうとしていた道、渡ろうとしていた橋は渡らずに通りすぎた。

 

 以降、その川の向こう岸へ渡るべき機会はない。当時はまだ渡る資格がなかった、と思う。でも今なら――しかし、相棒となるべき初代魔女はもう居ない。一度逃した機会は二度と戻らないのだ。

 

 それでも思う。もし、あの初代魔女を再び手にできたら、あの渡らなかった橋がもう一度目の前に現れるのではなかろうか、と。

 

 本当の意味で、どんな機会も一度きり。全く同じ条件はありえない。時は流れているのだ。それでもあの時と同じと思えるような新たな機会は来るかもしれない。そう信じる。

 

 

 初代魔女を探す――その過程でいくつもの新たな物語が紡がれた。思いもしなかった究極の魔女との出会いという物語さえ。あまりに衝撃が大きく、僕を再び弾き語りの舞台へと引き戻してくれた運命のギター「究極の魔女」――新たなステージへの道が開く。

 

 究極の魔女を手にしたことで僕の魔女探しの旅は完結した。それは事実。でも、本当の終わりではない。わかっていた。初代魔女にたどり着かない限り、僕の中では終わりにはならないことを。だから「探す」のは終わり、ただ、待つことは止めない――。

 

  

 そして、この時期に初代魔女と瓜二つのギターが現れたのは偶然ではないと思う。

 

 実は――歌が思うように上達しない、創作意欲が湧いてこない――モチベーションが下がり、ライブ活動は当分休止を宣言しようかと本気で考えていた、そのタイミングだったのだ。

 

「右向きのOLD EAGLE。これは――」瞬時にわかった。そう。出逢えば必ずわかるのだ。これは初代魔女の血族。翼の角度だけが違う、言わば「双子の姉妹」だ。

 

 試されているのである。今度こそ、あの橋を渡る覚悟があるかどうか。

 

 渡ろう――。再びその時が来たのだ。

 

<完> 

 

 

<<仕様>>

 表板:Solid German Spruce (※1)

 側・裏板:Solid Indian Rosewood 

 ネック:One-piece Honduras Mahogany 

 指板:Solid Ebony 

 下駒:Ebony

 サドル・ナット:Ivory

 

※1:カタログ表記ではGerman Spruceとなっているが1980年頃からはSitka Spruceが使われ始めている。本品も色見から判断してSitka Spruceではないかと推測する。