魔道記~外伝(非・魔物ギター編)

1982年Morrisの真実に迫る 

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 先ずは1982年のカタログから読み取れる新シリーズそれぞれの特徴を見て行く。

 

 エントリークラスのMDシリーズでは、今までとは真逆に上位機種の仕様を下位機種に持ち込んできた。

MDシリーズラインナップ(1982年)

・MD-501 オール合板  18,000円

・MD-505 オール合板  20,000円

・MD-510 オール合板  25,000円

・MD-515 オール合板  30,000円

・MD-520 表板単板   35,000円

・MD-525 表板単板   40,000円 

MD Seies
MD Seies

  最安がMD-501の18,000円から最上位MD-525の40,000円までの6ラインナップ。MD-515まではオール合板だが、注目すべきは上位2機種の表板単板モデル。これは1979年カタログでは6万円出さなければ買えなかった仕様なのだ(その前年までは5万円だったが)。

 

 一方、MVシリーズは音質第一で外観は質素な新シリーズ。全機種が最低でも表板単板であることを売りにしている。 

<MVシリーズラインナップ(1982年)>

 MV-701 表板単板    30,000円

 MV-705 表板単板    50,000円

 MV-710 表板・裏板単板 80,000円

 MV-715 オール単板  100,000円

 MV-730 オール単板  300,000円 
MV Seies
MV Seies

  こちらは最安30,000円のMV-701から最上位MV-730までの5ラインナップ。30,000円のMV-701が「このクラスで唯一のソリッド仕様」と、ハイ・コストパフォーマンスを全面にアピールしていた。そのせいか当時はMVシリーズの方がインパクトが強くて、MD-520などはそれに次ぐ35,000円の表板単板仕様であるにもかかわらず、あまり記憶に残っていなかったりする。余談だが、MV-715は100,000円でオール単板仕様(前カタログではオール単板仕様は120,000円から)を実現していて、これも驚きだった。

 

 

 Morrisは1967年創業。フォークブームだった1970年代はひたすらMartinコピーのエントリークラスが主流のメーカーだったが、ここに来てやっと独自性というかMorrisブランドとしての個性、ポリシーのような良い面が見えてきた印象がある。皮肉なことに、この直後にブームの反動によるアコースティックギター暗黒期が訪れるのだが。ただ、1970年代に培った技術に音質追及という方向性が加わって、この時代のMorrisエントリークラスのギターはもしかすると「当たり」の可能性がある。そんな期待が膨らむのである。

  

 

 続けて、注目の表板単板モデルの詳細を見てみると――。

 

<Morris MV-701(1982年カタログより抜粋)>

・このクラスの常識を超越した、驚異的なハイ・コストパフォーマンスを誇るスタンダードモデル

[Morris MV-701 スペック] 

 表板:スプルース単板 

 裏・側板:マホガニー2ピース(合板) 

 棹:ナトー 

 指板・ブリッジ:ローズウッド 

 糸巻:ダイカスト(クローム Morris刻印) 

 弦:モーリスライトゲージUSA

 指板・ポジション:丸ポジ 

 価格:30,000円 


 

 

<Morris MD-520(1982年カタログより抜粋)>

・デザインはあくまでシンプル。すぐれた音質の追及を第一義とした、スタンダードモデルの白眉ともいうべき一品 

[Morris MD-520 スペック] 

 表板:スプルース単板 

 裏・側板:オバンコール2ピース(合板) 

 棹:ナトー 

 指板・ブリッジ:ローズウッド 

 糸巻:ダイカスト(ゴールド Morris刻印) 

 弦:モーリスライトゲージUSA

 指板・ポジション:丸ポジ 

 価格:35,000円 


 

  

<Morris MD-525(1982年カタログより抜粋)>

・音質。音量。高低音のバランス。ヘッドと指板を飾る豪華なインレイが示すデザインの美しさ。すべてが最高峰TFシリーズに肉薄する高級モデルです。

 

[Morris MD-525 スペック] 

 表板:スプルース単板 

 裏・側板:アンデスローズ2ピース(合板) 

 棹:ナトー 

 指板・ブリッジ:ローズウッド 

 糸巻:ダイカスト(ゴールド Morris刻印) 

 弦:モーリスライトゲージUSA

 指板・ポジション:丸ポジ 

 価格:40,000円 


 

 

 個人的に、これらの表板単板クラスでエントリークラスの範疇にあると思えるのはMV-701とMD-520の3万円台の2機種である。MD-525は見た目も価格も上位クラス寄りで、初心者の1本目としては少々豪華な感じがするので除外することにする。

 

 ではいよいよ本題。もし、僕がギターを始めた中3の頃にこれが出ていたら、MV-701とMD-520のどちらを選んだだろうか。

 

 まぁどちらでも良いとは思う。ただ、「現実に1本目がW-20だった今現在の僕」が選ぶとしたら――MD-520だろうか。

 

 理由はスペックにある。

 

 MD-520と、僕が持っていたW-20(1979年)のスペックとを比べてみると――

[Morris MD-520 スペック] 

 表板:スプルース単板 

 裏・側板:オバンコール2ピース(合板) 

 棹:ナトー 

 指板・ブリッジ:ローズウッド 

 糸巻:ダイカスト(ゴールド Morris刻印) 

 弦:モーリスライトゲージUSA

 指板・ポジション:丸ポジ 

 価格:35,000円 

[Morris W-20 スペック] 

 表板:スプルース(合板) 

 裏・側板:オバンコール2ピース(合板) 

 棹:ナトー 

 指板・ブリッジ:ローズウッド 

 糸巻:単式カバー付クローム

 弦:モーリスライトゲージUSA

 指板・ポジション:丸ポジ 

 価格:20,000円 


 これを見ると、(カタログ上の話ではあるが)なんとMD-520とW-20は、表板が単板かどうかの違いを除いた他の使用材は同一なのである! これなら、図らずも「もしW-20が表板単板仕様だったら」という元々の妄想さえも実現することになるのではないか――

 

 新たな発見だった。この事実に気付いたことで当時は印象が薄かったMD-520の存在が一気にクローズアップされてきたのである。

 

 

 さて、こうなると現物を実際に弾いてみたい欲求が高まって来たぞ。ちょいとインターネットでも覗いてみようか――この時の僕はすっかり油断していた。こういう時に限って予期せぬ出物が現れるのが魔道の常であるというのに。

 

 ああ、こうしてミイラ取りはますますミイラに近付いて行くのである。

 

2021.8.20