翌朝。
部屋にはギタースタンドに立て掛けておいたままのL-28があった。窓のブラインドを開けて振り返ると、朝の光をやや斜め上から受けたその姿が目に入った。
見た瞬間、電流に触れたかように僕の中の何かが反応した。
まさか――。
目が留まったのはL-28の表板に浮き出た模様である。
その模様に見覚えがあったのだ。限界まで拡大して何度も隅々まで見尽くした初代魔女の写真。そこに見覚えのある模様と同じものが、なんと、このL-28にも認められるではないか。
まさか――。
それは、初代魔女L-28の写真が実体化したのか? と一瞬錯覚するような光景だったのだ。
昨夜の蛍光灯の灯りの下では判らなかったのだが、このL-28には、光の加減と見る角度で浮き出る木肌の濃淡の模様があったのである。
写真を取り出して見比べる。入念に、何度も、角度を変えて。
これは――
この写真の模様は当時の室内の何かが反射して写り込んだ影か何かだろうとずっと思っていたのだが、思い違いだった。これは木肌の模様だったのだ。そして、全く同じものがこのギターにもある。
間違いない。証拠はあった。いつも見ていたんだ。
さらに、ダメ押し的に、ヘッドの木目に写真と同じ明るい帯状の木目のラインも確認できた。
もう、これ以上の証は必要ない。ここまで特徴が一致してこれが初代魔女じゃないとしたら、もう他にクローンでも存在していない限り説明がつかない。それはあり得ない。
これは、100パーセント間違いなく初代魔女だ。
やっと、心底から納得できた。インレイの希少さから確率論的に考えれば、このインレイを持つ同年代のギターを見つけた時点でそれが僕の持っていたギターである確率はかなり高かった。僕自身の思い込みがそれを見えなくしていただけだったのだ。
そして――結論として、ギターの表板には修理を要するような割れの形跡はなかった。木目の凹凸状態で塗装に割れが生じているように見える箇所はあるが、それは表面的なものなのである。もちろん修理痕も無い。
そうだと思っていた。やはりあの当時の出来事は――だが、それはもうどうでも良いこと。今こうして僕の手許にあるのだ。これ以上何を望むというのか。
そうか。やはりお前は――還ってきたんだな。
まさかの連続の、これが本当にまさかの結末だ。感慨は静かに降りて来る。少しずつ心を満たしていく。天気が良い。ああ、何だか今日はいい日なんだと思った。
<完>
2021.2.7