12月6日 終了日――終了時刻が迫る。
気が変わるどころか、ますます手に入れなければならない気持ちになっている。どうしてだろう? ただ、経験的にわかっていた。こういう時はいくら頭で考えても無駄なのである。素直に従うに限るのだ。過去、そうやって歴代魔女達は我が家にやってきた。理由はたぶん、後でわかる。きっと今回も。
ならばその前に、現実の戦いに勝たなければならない。ここで冷静になる。希少なビクトリア時代のL-28とは言えジャンク品である。競合者が出る可能性は低いと読んでいた。
残り10分――未だ入札者なし。
よし、入札のタイミングだ。保険の意味で開始金額より5,000円だけ上乗せして入札――しようとしたのだが、何故か直前に思い直して上乗せを25,000円に上方修正した。僕が最初の入札者である。
そのまま残り5分を切る――このまま行けそうな感じ。
ところが――なんということか、終了直前になって競合者が現れた。しかも、想定外に競ってきて、あっという間に僕の入札額の4,000円下まで迫って来る。
どうする? いや、ここは高値更新されるまで動くべきではないと判断。もし、越されたらどうしようか。その場合は――その時に考えよう。目を閉じて静かに時を待つ。
再び、残り5分――長いような短いような不可思議な時間が過ぎた。そして――
オークション終了――落札!
競合者はそれ以上競ってはこなかった。危なかった。何度か再入札しても僕の入札額を越えられなかったことであきらめたらしい。相手が幾らで入札しているかわからないことは心理的プレッシャーとなる。予定通り5,000円上乗せで入札していたら高値更新されて手の内がばれ、その後は泥沼の高値更新合戦に陥った可能性がある。どうしてか直前に入札額を変えたことが功を奏したのである。僕の意志というより、ごくたまに、Larriveeギターに関してのみ発動する「第六感」のおかげかもしれない。
さあ、はたしてこれで良かったのか? 後悔は全くない。
それにしても――このOLD EAGLEのインレイ。思えば初めて出会った時は意図的にこのインレイにこだわっていたわけではなく、始まりは単なる偶然の巡り合わせだったのだ。 ▸初代Larrivee
高1の時に雑誌で見たL-78 Presentation Cutawayに衝撃を受け、憧れていたLarrivee。大学1年の時、軽音楽系サークルの先輩から「Larriveeを売りたがってる人がいる」という情報を聞いて紹介してもらった。
そこは繁華街、ビルの地下。初めてライブハウスという場所に入った。
持主がちょうどそのLarriveeを抱えてステージで歌っていたのだった。初めて見たLarriveeの実物はあまりに魅力的すぎて、一目で気に入ってしまい、もう何としても手に入れたい気持ちになっていたのだ。
そのギターこそが「初代魔女」L-28 Deluxe Cutaway。そして、そのインレイがたまたまOLD EAGLEだったのである。気に入ってはいたが特に希少だという意識はなかった。さらに、当時はまともなカメラも所持していなかったため、ハッキリした画像も残せず、後のギター再開時の捜索で大変な苦労をするはめになったわけであるのだが。
ついにそのインレイと直に再会できる日が来る。到着予定は6日後。ギターの状態はとても気になるが、そこは頼れる店Ramzy'sがあることだし。
なんだか対面がすこぶる楽しみになってきたぞ。
2021.1.16