初代魔女再生記  

<Prev 1 2 3 Next> 


 2021年が明けると、初日からまた忙しい工程に突入した。仕事があるだけ儲けものだと思わないとやってられない――ところなのだが、初代魔女のおかげかそれほどささくれた気分にはならないのである。

 

 重篤な故障をかかえていても「一応音は出る」状態なので、毎日ほんの少しでも弾いていた。空白の期間を埋めるかのように。

 

 さらには、すぐに手に取れる場所において触れたり眺めたり……そこに存在するだけで満たされる、まるで精神安定剤のような効果である。 

 

 

 音に関しては、弦はビビるし、音量は出ない。けれども、音色は確かに「Old Larrivee」である。長い年月をかけて確証に至った初代魔女の音色――すでに同年製の最後の魔女L-28が手許にあるので、当然かなりの精度で想像していたのだが――その想定通りのトーンなのである。この事実が特に嬉しかった。

 

 爪弾いていると、色々と当時の事を思い出したりする。西日が眩しい四畳半の夏の暑さや、雨上がりのアスファルトの匂い、大学近くの喫茶店……。イントロのフレーズを急に思い出した当時の歌は、今でも歌っていたりするのである。

 

 

 そうこうするうちにRamzy'sから「お待たせしました」とメールが届いた。週末を待って、早速持ち込む。修理の詳細は追って知らせてくれるということで、そのまま長期入院である。

 

 

すると、「ブレイシングは想像以上に剥がれておりました……」と、画像付きの報告がその日のうちに来た。

 

「バック面にマスキングを貼って位置と長さを示した画像を添付しますのでご参照下さい」と添付された画像がコレである。 

ブレイシング剥がれ箇所(マスキングテープの貼られた部分)
ブレイシング剥がれ箇所(マスキングテープの貼られた部分)

 

 中心部以外は見事に全剥離、ブレイシングは全滅状態だった。

 

「よくもっていたなという印象です」とはN店長のコメントだ。かなり瀕死の状態だったようである。まあ、ね。予想はしていましたよ。あの音量感ですから。

 

 それにしても――ブレイシングの全滅は究極の魔女L-78と魔獣ユニコーンL-27に次いで3度目である。ブレイシングの接着が弱いのは古いLarrivee全般の傾向なのか、僕が入手したlarriveeがたまたまそうだったのか、それはわからないけれど。

 

 それでも、想定以外の要修理箇所はないとのことで、そのまま引き続き作業に取りかかってもらうことにした。

 

 さあ、いよいよ名実ともに初代魔女が復活する。その日がいつになく待ち遠しいのである。

 

 2021.3.7