大魔女の系譜  

<Prev  2 


 その「大魔女」を見たのが2007年。まだ本物の「究極の魔女」と出会うなんて思ってもいない頃で、ちょうど「初代魔女(L-28 Dewluxe Cutaway)」の面影を求めてネットをさすらっていた日々のこと。 

 

 とにかく1970~1980年代のOld-Larriveeは数が少ない。それは日本国内に限らず、アメリカや本国カナダにおいても同じ。まずめったに見かけないから、見つけた時は型番にかかわらず穴の開くほど観察する。

 

 ある日、某楽器屋のホームページに、はっ! と目を惹く古いLarriveeが出た。その画像からは、何かとてつもないオーラが見えた。一瞬「究極の魔女か?」とさえ思った。よく見ると形も違っているのだけれど、イメージがとてもよく似ていたのだ。 

 

 それは――まず、ほとんど見ることがないカッタウェイなし(L型ボディ)の大魔女だった。

 

 

 同一グレードにはカッタウェイありとカッタウェイなしの両方が存在する。当時のカタログには無かったが、「究極の魔女」L-78にもカッタウェイなしバージョンがあるはず、と思っていた。 

 

 これがそれなのか? 究極の魔女と同格、魔女の中の魔女、古(いにしえ)の大魔女Presentationグレードモデル

掲載されていた当時の画像を再現
掲載されていた当時の画像を再現

 

 ボディトリムとロゼッタのアバロンシェルを見る限り間違いなく最上位Presentationだが、ヘッドインレイは華麗なタンバリンレディとは違って、もっとシンプルでほのぼのした森ガール系(古い表現?)。ブリッジはエボニーの木製で、インレイ装飾はDeluxeグレードと同じデザインだ。画像の細部の特徴(サウンドホールが小さい、等)から、「究極の魔女」よりもっと古い時代のものと推測された。ビクトリア時代初期かあるいはそれ以前のトロント時代か。

 

 別画像にラベルの文字が映っていた。

 

TORONTO……'77。なんとこれは、トロント時代最終年製。

 

 インレイが――優しい。シンプルだ。後の細密な造作に比べるとまだ進化の途中という感がある。正確なことは知る術もないが、これがトロント時代最後期の仕様なのだろう。驚きだった。究極の魔女をビクトリア時代の完成形と見るなら、その原型とも言える姿がそこにあったのだ。 

 

 ただ――値段がジャスト7桁の¥1,000,000-。神の領域だ。いや、それだけの価値があるのはわかる。ただ、メジャーなMartinやGibsonならいざしらず、Larriveeで7桁の値段は需要があるのだろうか? 誰かいい人の所へ迎え入れられるといいのだけれど――。 

 

 

 僕の知る限りでは、これが最古のPresentation「大魔女」。言わば「母なる大魔女」だ。 

 

 おそらくは究極の魔女の1~2世代前のモデルだ。大魔女の系譜はどうやらこの頃から始まったのだろうと推測される。その後現在に至るまで、これの他にトロント時代のPresentationモデルは見たことが無い。まさに唯一無二の「古の大魔女」。注目すべきは、ビクトリア時代のものとほぼ同じであると思われることだ。つまり、このことはビクトリアに移動する直前にはラインナップがほぼ完成していたことを示す。 

 

 初期の完成期だったビクトリア時代だが、移転後に急に何もかもをモデルチェンジしたわけではなかったのだ。黎明期と位置づけているトロント時代初期から改良・進化を積み重ね、徐々に熟成されてきた仕様は、トロント時代最終期には完成に近付き、それがそっくりビクトリア時代に受け継がれていたということである。 

 

 とは言っても、試行錯誤のトロント時代の仕様は例外だらけなんだろうなぁ……。ただ、初期カタログラインナップの基本的仕様はこの時代に確立したと見て間違いない。そして、量産へ向けてLarrivee氏はビクトリアへの移転を決めたのだろう。 

 

ビクトリア時代になって、工房の規模が増大し、機械化工程が増え(原始的なルーター程度だが)、人員も増えた(それでも総勢14人)。Larriveeが工房ではなく、メーカーとしてのスタートを切ったのだ。そして1979年になって「究極の魔女」が製作されることになる。 

 

 なるほど。あぁ、こんな海の向こうで僕の運命に関わる出来事が起こっていたなんて――当時は知る由もない。そう考えると人生って不思議である。 

 

 

<完>