希少種――ギターに関してこれに当てはまるのは、そもそもの絶対数が少ない限定品、もしくは超絶グレードの高額な機種など。ただ、これから語るのはそれらとは異なり、意図せず希少種となった機種の話である。
◆000型とは
アコースティックギターは物理的に大きい、と思うことがある。特にD型ボディは。絶対的な尺度というより「エレキに比べて」の話だが。
かつて小柄な女性から「ギターを始めたい」と相談があった時に、色々物色していて気付いた。その感覚は具体的に「厚さ」の部分によるものなのだと。そう、アコースティックギターでも胴が薄いとそんなに大きさは気にならない。例えばMartinで言うと000型とか――。
000型はD型に比べて全体的に一回り小ぶりで、弦長も短い。見た目はくびれた感じのボディシェイプで、胴が薄いのが特徴。1990年代にエリック・クラプトンがアンプラグドTVでMartinの000-28を使ったことで広く世に知られるようになったが、それまでは本場アメリカでもさほど売れている機種ではなかったらしい。歴史はD型より古いのだが。
当然、当時の日本でもフォークギターと言えばDタイプ一辺倒で、000型はあまり人気がなかった。というか、初心者の頃は000なんて名称すら知らなかったし。
そんな「薄いギター」が一本欲しいと、いつの頃からかなんとなく思っていた。位置付けはサブギターだ。まあ、国産1970~80年代で、最低限表板単板クラスならブランドは問わないかな。
とは言っても、フォークブームの頃は大手メーカーのMorrisでさえ000型(Fシリーズ)はエントリークラスのみで、上位の「表板単板クラス」はラインナップに存在しなかった。
あぁ、探すと無い物なんだ、1970年代国産表単板000型。不人気というか需要が少なかったがための希少種だ。しかも廉価クラスなので不要になった後はリサイクルショップのジャンクコーナー行きが定番コースの不憫な存在である。そこそこ程度の良いモノを探すのは苦労しそうな予感。
ところで、そもそも条件に合致する機種が当時存在したのか? と調べてみると――あった!
◆ターゲットはYF-201
S.Yairi YF-201――旧S.Yairi製品中唯一の000モデルで「YF-201はマーチン000-18を継承」とカタログで堂々と謳われていた機種だ。おそらく1977年頃~の発売で当時定価は\50,000。000-18のコピーなら側・裏板がマホガニーのはずだが、YF-201はローズウッド(合板)。まぁ、ここは突っ込んでもしょうがないけれど。
<S.Yairi YF-201 スペック>
\50,000-
表板:スプルース単板
裏板:ローズウッド
側板:ローズウッド
ネック:マホガニー
指板:ローズウッド
駒:ローズウッド
ピン:黒タン
糸巻:S.ヤイリ・オリジナルクローム
弦:ダダリオライトゲージ
ポジションマーク:ドット
<200 SERIES 説明>
フォークギターの原点を追求した200シリーズ。
コンパクトなボディからは、サスティンのきいた
繊細で、吸い込まれるような輝きの中高音が
広がってきます。
胴のくびれたYF-201はマーチン00018を継承、その繊細な高音域の美しさは抜群。
―カタログより抜粋ー
人気ブランドだった旧S.Yairiにおいてさえも、このYF-201は当時あまり注目されなかった不遇な存在だろう。僕自身もほとんど気にしたことが無かったし。いったいなぜ故か?
おそらく、偏った邪推をすればD型では大きくて体に合わない人、もしくは女性のために「仕方なく」小振りなギターのラインナップを揃えました、といった感じに捉えらていたからだろうか。売る側もあまり力を入れていないことが明らかだったのだ。それが証拠に、なにせ000型はこの最廉価のYF-201のみしか出ていないのだから。むしろ、よくぞラインナップされていたと言うべきか!
ちなみに、S.Yairiの「200シリーズ」はニューヨーカータイプのYF-200と、このYF-201のみ。余談になるが、YF-200は故・高田渡が愛用していたことで当時から根強い人気がある機種だ。それに比べるとYF-201はアンプラグドの流行った1990年代以降になってようやく知名度が上がり、プレミア価値も付いたのだが、悲しきかなすでに旧S.Yairiは倒産、YF-201も当然絶版になった後の出来事だ。
そもそも絶対数が圧倒的に少ないが故の希少種、それが旧S.YasiriのYF-201なのである。
当時、何らかの思い入れを持ってこのYF-201を買った人がどれだけいるだろうか。価格帯は\50,000と最安だが不人気な000型。一般的な初心者男子なら主力のD型、300シリーズに目が行くだろうと思う。
ともかく、そういう事情からYF-201は中古市場でも極端に玉数が少ない。ましてや程度のいい個体となると――。
ということで、000型を探すにあたっては当然YF-201も視界には入ったが、なにせ現物になかなかお目にかかれないのであまり執着はしていなかった。それに、どうせ買うなら程度の良い物を、と思っていたので。
これは、言ってみれば「出ないだろう」とわかっていての「しばり」なのだ。そのはずだった。それが――出たのである。このタイミングで。
つまり、そういうことだ。買わねばなるまい!?
2022.12.31