大学卒業後、しばらくは”週末限定ロッカー”としてバンド演奏は続けていたけれど、アコースティックギターを弾く機会はずっと途絶えていた。そのバンドもやがて解散して音楽活動から事実上の引退。そして長い沈黙の時代へ――。
雲行きが変わったのは2004年の秋。様々な巡りあわせがあって音楽活動再開の気運が急に高まった。ただし、このとき想定したのはバンド活動の方だった。しかし、そちらは諸々の事情で断念せざるを得ず、 せっかくの勢いに水を差される形に――。
けれどその反動というか、そのおかげで半ば封印していたアコースティックギター活動再開への扉が開いた! 偶然外れた知恵の輪のように。バンド活動休止から10年、アコースティックギターに関しては実に18年にも及ぶ空白の後で。
活動再開するならふさわしい相棒を! と決意表明も込めて新しくアコースティックギターを買うことにした。狙いは――やはりLarrivee以外にはありえない!
Larriveeについては折に触れチェックだけは続けていた。その後のLarriveeは順調に発展して行ったようで、2004年時点では拠点をカナダ国内からアメリカにまで拡大していた。問題は、今でもまだ僕を魅了するだけの存在かどうか。
Larrivee創立30周年となる1997年のカタログを見ると、外観の印象は変わっていないけれどラインナップは全く変わっていた。強引に結びつけるなら、衝撃のL-78はC-72(プレゼンテーション・シリーズ)、初代のL-28はC-10(デラックス・シリーズ)が後継機種にあたると思われた。
"衝撃"のL-78 → C-72(プレゼンテーション・シリーズ)
"初代"のL-28 → C-10(デラックス・シリーズ)
この「C」というのが例の、ボディ上部が鋭角的に欠けた「フローレンタイン・カッタウェイ」という形状の型番だ。ここは譲れない点なのでまずはC-10、もしくはC-72が候補に上る。
ところが、ボディ形状に関してはショックな事実が判明する。2004年最新のカタログに「C」タイプが載っていない! どうやら現行モデルは欠け部分の角が滑らかな「VC(ヴェネチアン・カッタウェイ)」という形状に変わったようだった。つまり、「C」の新品にこだわるならデッドストック品を探すしかない――二代目Larrivee購入計画はいきなり大ピンチを迎えてしまった。
実際に調べてみると、予想通り新品は全く見当たらない! どこにも売られていない! それも当然、「C」タイプが廃番になったのはもう4~5年も前のこと。2000年にアメリカ工場が完成したのを機に、ラインナップも一新されたらしい。とても残念だけれど、C-10・C-72の線は消滅。二代目探しは一旦、白紙に戻ることに。
ところで、1997年のころはC-10より下位のグレードにC-09とC-05というモデルがあった。C-10とボディの形は全く同じ。インレイ(装飾)が少なく、ヘッドには「larrivee」のロゴ文字だけ。全体的に簡素な外観の、廉価な「スタンダード・シリーズ」だ。ヘッドのインレイデザインもこだわりの条件のひとつだったので、これらの廉価モデルは対象外にしていた。
それが――とある楽器屋のホームページで、C-05 Eagle Specialというモデルを見つけたのだ。C-05の基本仕様にプラスして、へッドには通常より小さな鷹のインレイ、ブリッジ(下駒)にはデラックス・シリーズと同じ装飾が入った日本向けの特別仕様らしい。むむ! これは――。
譲れない条件はとりあえずクリアし、展示現品だけれど一応新品。想像していたイメージからも、そう遠くはない。
ふむ。これ、いいんじゃないか? 「初代L-28の後継機種」という縛りで選択肢を狭めてしまっていたけれど、それを抜きにして冷静に見ると、むしろ今回の目的にはすこぶるピッタリな気がしてきた。インターネットも探し尽くして、現段階でこれ以上のモノは見つかりそうにないし。
――何より、琴線に触れるものがあった。うまく説明はできないけれど、これがとても大事な感触だ。
こうして、二代目LarriveeはC-05 Eagle Specialに決定した。
おそらく初代のL-28とは別物だと承知している。そのうえで、今回の選択は正解だったと思う。やや硬めの現代的なトーンであるが、マホガニー材の特徴のまろやかな感じも良く出た、繊細できらびやかな音色。各弦の音量バランスは申し分なく、音の分離も非常に良い。それでいて見た目から想像する以上の音量――。
あきらめていた失くし物が見つかったような、不思議な感慨を覚える。18年の空白を超えて色々な物事が繋がった感じだ。紆余曲折あったけれど、今度こそ……今度こそこいつを相棒に充実した音楽活動を!
結局、カナダ時代の「C」タイプを新品で見たのはこの時の一度きりで、この1本のみ。たぶん、本当に最後のチャンスだったのだろう。だからもしかすると、アコースティックギター活動を再開するにもギリギリ最後のタイミングだったのかもしれない。これも不思議な巡り合わせなのか? あの時、二代目Larriveeと出会えて良かった、と、今でもつくづく思っている。
さて、長い年月を超えて蘇ったLarrivee熱。これだけで収まるのだろうか? 今度の二代目はちゃんと「身の丈に合った」ギターだ。でも、その先がまだあるんじゃないかという予感がする。なにせLarriveeは僕の最も古い魔道の一つだから――。
<完>
Larrivee C-05 Eagle Special 1998
<<仕様>>
表板:Solid Sitka Spruce
側・裏板:Solid Honduras Mahogany
ネック:One-piece Mahogany
指板:Ebony
下駒:Ebony
サドル・ナット:TUSQ
2019年現在も、ヴォーカル科発表会のステージ等で活躍しているメインギターのひとつだ。