◆個人輸入の壁
カナダのトロントにある楽器店のホームページで見つけた「魔女」、Larrivee L-10 Deluxe 1978。もし、それを手に入れようとするなら、今まで考えたこともなかった手段に訴える必要があった。
個人輸入――個人使用を目的として海外から海外製品を直接購入すること――だ。
その言葉から、僕とギターとの間に霧に覆われた巨大な山脈がそびえるような、漠然としたイメージが浮かぶ。では、具体的に国内の通信販売とどこが違うのか?
海外からの輸入の場合「税関を通さなければならないこと」が最大の違いだ。どんな規制があって、どんな手続きが要るのか? 素人ができる作業なのか? ここは不安が大きい。他にも不安点は多々ある。そもそも輸入可能な品なのか? それ以前に海外発送してくれるのか? 送料は? その他の費用は? 支払い方法は?
それに加えて僕にとっては「言語」の壁。相手はカナダの楽器店であり、やりとりは全て英語となる。購入手続きなども国内とは勝手が違うはずで、それらも含めてちゃんと解決できるのか?
でも、超えるべき壁はこれぐらいだろうか? 英語と言っても、オンラインショッピング形式なら、国内と同じ感覚で手続きもできそうな気がするけれど。
霧が晴れて全体像がおぼろげに見えてきた。超えるのが不可能な巨大山脈ではないことはわかった。けれどすぐに、かつての「ベルリンの壁」並みの超え難い難関に思えてきた。Twelfth fletのホームページはオンラインショッピング形式ではなかったのだ。「興味があれば問い合わせてね~」とメールアドレスが載っているだけだったのだ。これは一筋縄ではいかない。
気を取り直して、まずは自力で調べられる部分から。
税金についてはすぐにわかった。通関時にかかる税金は2種類、関税と消費税だ。
関税は課税品目が決まっていて、ギターは対象外。つまり関税はゼロ。消費税はインボイス(内容申告書類)で申告した値段の6割に対して5%(2008年当時)。カナダ国内の税は、輸出品には適用されない。これは店側でちゃんと輸出手続きをしてくれればゼロとなる。思ったより税は安い。
通関のための書類作成も楽器店側の作業だ。ただ、税関での受け取りは僕がやらなければならない。
あと、最も怖いのが何かトラブルになった時の対応だった。素人では手に負えなくなる危険性がある。それを考えると、この先に踏み込む勇気が湧いてこなかった。
――やっぱりギターの個人輸入なんて簡単にはできそうにない。ここはおとなしく個人輸入代行業者に頼もうかな、という気になってきた。
敗色濃厚な気分でもう一度、Twelfth fletのホームページの画像を見た。魔女が笑う。ちょっと待て……よ。
ここで、ふと何かを感じた。魔女は「欲しいなら自力で取りに来い」と言っているように感じた。そうだ。魔女を手にするには自分の手で困難を乗り越える必要がある!
そこまでして私を手に入れたいなら……。