◆遥かなる地から海を渡って
問題は僕の英語の作文能力だけれど、少なくとも楽器店とコンタクトを取ることまではやってみる価値があるんじゃないか?
英語でメールのやりとりをしたことはない。でも、そうと決めたら泣き言を言っている場合ではなかった。事の難解さに浮き足立っていたけれど、大事なことを確認しなければならない。この店が海外向けにギターを売ってくれるか? ということだ。
一応、ホームページには世界中どこに向けても販売実績がある、みたいな文言があった。輸出に慣れている店と踏んだ。とはいえ、ちゃんと確認しなければ。
「日本へは発送可能か」
「送料はいくらか」
翌日すぐに返事が来た。どうやら意図は伝わったらしく、ちゃんと回答が記されている。英語力の問題は何とかなりそうな気配。
内容は、日本にも輸出実績がある、ということだ。これは大きい!
送料についても365C$と記されていたが――目に留まったのが「fedex」という文字。fedex? 聞いたことはある。運賃は多少割高だけれど、通関手続きを代行してくれてその際の税金の支払いも立て替えてくれる運送会社だ。おまけにカナダからだと3~4日で我が家まで届くという! それだと国内の宅配とさほど変わらないんじゃないか?
問題はどれだけ割高かという点だけれど、直近の国際空港留めの運賃に比べて2~3割高い、と。その程度なら、わざわざ空港まで出向いて不慣れな通関手続きする手間を考えると、絶対にfedexが得だ。
何か……これで問題解決したんじゃないか? ついに魔女が海を渡る道筋は見えた。結論が出た。買うしかない! 購入意志をメールで伝える。
ところが、その先にはまだ次の壁があった。支払いはどうする?
提示された支払い方法は2つ、カード払いと銀行振込だった。カードは番号漏れ等、セキュリティ上のリスクが気になったので、今回は銀行振込にすることにした。
返事が来る。入金を確認次第発送する旨と、振込先の口座情報が記されていたのだけれど――よく見ると馴染みの無い名称の番号がいくつかあった。これは何? 例えば「Transit number」とか「Swift Code」とか。調べてみたけれど、よくわからなかった。
翌日――。
銀行へ行き、カナダの銀行へカナダドルでの送金をしたい旨を伝える。僕の銀行口座から直接振込んでもらう方法だ。すると別窓口へ案内され、担当の行員が対応してくれた。
例の番号については銀行側で調べてもらったのだけれど、窓口の担当も詳しくはわからず、海外送金担当の部署と電話で確認しながらの対応になった。カナダへの送金はあまり例がないのだろうか?
結局、依頼書の書式に合わない番号も全部一つの欄内に書き、それにTwelfth fletからのメール本文を添付して提出した。あとは海外送金担当の部署でちゃんと処理してくれるということで、何とか送金手続き終了。遅くとも1週間で相手側の口座に入金される、とのこと。1週間か。結構かかるものだ。
とにかく、これでこちら側のやることは全て完了した。入金を行った旨のメールを送ったら、あとは相手側口座に入金されて、ギターが届くのを待つだけだ。
あー。慣れないことは、やはり大変だった。
4日後――。入金確認のメールが届いた。そして発送。fedexの問合せ番号が記されていた。
fedexは本当に速かった! 2日後にはもう日本に着き、成田で「通関済み」になっていた。え、とぉ……。通関にはけっこう時間がかかるものと覚悟していたけれど、気がつくといつのまにか、という感じで手続き完了になった。ちょっと拍子抜けだった。
とりあえず「最大の関門」はあっさりクリアしちゃったわけで――ここからは国内業者に荷物が委託されて1日程度で届くはず。
翌日、念のために電話で問い合わせてみる。すると、予想通り「本日お届け予定です」とのこと。何と! 結局3日で無事に届いた。本当に国内の宅配より速かった!
2008年。まだ肌寒い4月初旬――。
遥かなる地から海を渡って、新たな魔女が我が家にやってきた。